それは、遠い遠い昔の話。
僕が新卒採用で入社した株式会社Z会で、「必修編 英作文のトレーニング」を編集していた頃の話。
Z会に新卒採用で入社した理由
僕がZ会に新卒採用で入社した理由はシンプルで、Z会の「百の聴講より一の実践」というモットーに強く共感したからだ。
「百の聴講より一の実践」とは、読んで字のごとく、「100回授業を聴くよりも、1回自分で問題を解いたほうが学習効果が高いよ」という意味だ。
よりくわしいことは公式サイト↓に書いてある。
なぜ僕がこのモットーにそれほど強く共感したのか?
それは、僕自身が大学受験を通じて、「自学自習することの重要性」を身にしみるほど痛感したからだ。
振り返ってみれば、高校のときは学校の授業をダラダラ聞くだけで毎日が過ぎ、結局80点差で京大に落ちた。
浪人することが決まって、僕は鬼になった。
携帯電話のネットプランを解約して、外界との接触を一切絶った。
そして、予備校には行かずに毎日自習室にひきこもって勉強したら、成績がアホみたいに伸びた。
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結果的に、何とかリベンジを果たすことができた。
その一方で、予備校に行って授業を受けるだけで満足していた同級生はみんな落ちた。
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僕はこの経験を通じて、「受験勉強において最も重要なのは自学自習である」という当たり前の結論にたどり着いた。
「ヤバイ大学受験Blog」をすみずみまで読んでくれている物好きな人なら、僕がこのブログを通じて「自習が大事!」と口酸っぱく主張しているのを理解してくれるはずだ。
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とにかく、「百の聴講より一の実践」というモットーは僕のハートに鋭角に突き刺さった。
そして、僕は英語の勉強が大好きだったから、Z会に入社して英語の教材を作ることで、このモットーをより多くの受験生に体現してほしいと思った。
よし、決めた!Z会に入社する!
僕はZ会の選考にエントリーし、無事内定を得ることができたー。
新入社員研修を経て、運命の配属先発表
そんなこんなで、僕は晴れてZ会に入社することになった。
しかし、入社時のタイミングでは、自分がどの部署に配属されるかはまだわからない。
2週間ほど新入社員研修を受けたのちに、はじめて配属先が発表されることになっていた。
僕は「英語教材の編集がしたい」と面接でしきりにアピールしていたし、英語の筆記試験の手応えも悪くなかったから、配属希望は叶うだろうと踏んでいた。
だが、この世に「絶対」なんてない。
日本の多くの会社では、配属は「ガチャ」なのだ。
実際に発表されるまでは、油断は禁物だった。
そして、2週間はあっという間に過ぎ、運命の配属発表の日がやってきた。
新入社員一人ひとりの名前がランダムに呼ばれて、それぞれの配属先が告げられるというスタイルだった。
驚いたことに、僕は一番最初に名前を呼ばれた。
そして、「中高生向けの英語教材を編集する部署」に配属されることが正式に決まった。
「よし、これで英語の教材が作れるぞ⋯!」
配属の希望が通って安心したのも束の間、「一刻も早く仕事を覚えないと!」と焦燥感に駆られた。
Z会入社1年目で「必修編 英作文のトレーニング」の編集担当になった
新入社員研修~配属発表を終え、僕は「中高生向けの英語教材」を編集する部署に配属されることになった。
その中でも「大学受験生向け」の英語教材を編集することになった。
大学受験生向けということは、要求される知識のレベルも必然的に高くなってくる。
すごくプレッシャーだったけど、とにかくがむしゃらに頑張ろうと決意した。
僕が担当することになった英語教材は主に以下の3つだった。
- センター試験用の通信教育教材
- 東大受験生向けの通信教育教材
- 「必修編 英作文のトレーニング」
このラインナップの中で、一つだけ目を引くものがあった。
「必修編 英作文のトレーニング」だ。
これは市販の参考書で、当時すでに書店で売られていた「入門編 英作文のトレーニング」の改訂版ということだった。
改訂といっても、例題を8割ほど刷新するとのことだったので、ほぼ新刊のようなものだった。
(ちなみに、「必修編」と同じタイミングで「はじめる編」の新装版が、「必修編」の4ヶ月後に「実戦編」の改訂版が、「必修編」の1年後に「自由英作文編」の改訂版が発売されることになっていた。)
入社したばかりで右も左もわからない自分に、はたして1冊の参考書、しかも232ページもの分量を編集することが可能なのか?
正直、不安だらけだった。
ただ一つはっきりしていたことは、「自分が編集を手がける参考書が来年の3月に全国の書店に並ぶ」ということだけだった。
僕はそのコンパスだけを頼りに、教材編集という名の大海原をこぎだした。
さっそく、「デザイン作成」という大きな壁にぶつかる
そんなこんなで、6月くらいから「必修編 英作文のトレーニング」の編集が本格的にスタートした。
けど、さっそく大きな壁にぶつかった。
「デザイン作成のやり方」がわからなかったのだ。
たとえば⋯
- ヘッダ部分や例題の枠囲み、解答例のデザインはどうするか
- アイコンのデザインはどうするか
- 英文と日本語文のフォントは何を使うか
- 文字の大きさはどれくらいにするか
- 行間はどれくらいの間隔にするか
こういった基本的な事がらについて、僕はあまりにも無知だった。
当たり前だけど、デザインを固めないと原稿を流し込むことができない。
「箱」がないと「物」を収納できないのと同じだ。
実際にデザインを作成するのは僕ではなかったけど、「デザインの方向性」は編集者が考えてデザイナーの人に指示しなければならない。
当時の僕は「参考書は内容がすべて」と思っていたから、「何で俺がデザインを考えなくちゃいけないんだよ」と内心で不満を抱いていた。
その当時の僕にこう言ってやりたい。
「デザインは、参考書選びの大きなポイントになるから本気で考えろ」と。
書店で参考書の「中身」を仔細に眺める受験生はそんなに多くない。
だからこそ、一目でわかる「デザイン」が参考書選びの大きな決め手になることがある。
当時の僕はこの程度のことをまったく理解していなかったし、理解しようともしていなかった。
こんな無知な僕だったけど、ほかの参考書のデザインを参考にしたり、上司や同僚の助けを借りたりしながら、何とか見本組を作成することができた。
今思えば、「必修編 英作文のトレーニング」は見開き2ページのデザインだけを考えればよかったので、比較的楽なはずだった。
ぶっちゃけ、文法書や長文問題集のほうがデザインを考えるのが100倍大変だ。
当時の自分は、何をあんなに苦労していたんだろうと思う。
「対話形式の解説ならではの難しさ」にも直面
デザインのセンスに関してはまるで自信がなかった僕だけど、内容面に関してはものすごく自信があった。
なぜなら、僕は英作文の勉強が大好きで、英作文に対する知識と情熱なら誰にも負けないと自負していたからだ。
関連記事 英作文(和文英訳)で点が取れる書き方のコツを徹底解説します!
しかし、内容面に関しても大きな壁にぶつかることになった。
具体的に言うと、「対話形式の解説」というスタイルにものすごく苦戦した。
「必修編 英作文のトレーニング」は、生徒が書いた答案の添削例をベースに、生徒・日本人教師・ネイティブスピーカー三者による対話が繰り広げられるという解説スタイルを採用している。
対話形式であるがゆえに、「三者が相互的なコミュニケーションを取れているか」や、「1冊を通じてきちんとしたストーリーに仕上がっているか」などを考慮して編集しなければならなかった。
一般的な参考書のように、「ポイントを客観的に説明していればそれでOK」とはいかなかったのだ。
当時の自分は、まるで参考書と小説を同時に編集しているような感覚に陥っていた。
「英語的な正しさ」と「解説のわかりやすさ」を両立したうえで、「ストーリーとしての面白さ」にも気を配って編集するのは、当時の僕にとって本当にきつかった。
今でもたまに、このころを思い出して胸が苦しくなることがある。
ようやく入稿開始!しかし、ここからが本当の地獄だった⋯
そんな感じで原稿と格闘しながら、10月ごろにようやく入稿を開始した。
ぶっちゃけ言うと、ここからが本当の地獄だった。
「入稿の準備」と「ゲラの校正・校閲作業」が同時進行になってくるからだ。
通常、参考書は何回かに分けて入稿する。
たとえば、「必修編 英作文のトレーニング」は全部で13章あるんだけど、まずは1~2章、その次に3~4章⋯、みたいな感じで、時期をずらして入稿していった。
このやり方だと、たとえば7~8章の入稿準備をしている間に、すでに入稿を終えて初校ゲラが出ている3~4章の校正・校閲作業をしなければならなくなる。
同時並行でさまざまな段階の作業をしなければならなかったから、頭は爆発寸前だった。
そう、僕は人一倍「マルチタスク」が苦手なのだ。
また、これは「教材編集あるある」なのだが、入稿時には全然気にならなかった内容が、初校ゲラを見たとたんに気になりだしてしまった。
本来は、入稿時のタイミングで内容を固めておいて、初校ゲラ以降は誤字脱字やちょっとした内容の誤りを修正するのが理想だ。
けど、当時の自分は内容を固めていたつもりでも、「もっとわかりやすい説明の仕方」や「もっと簡単な解答例」があるのではないかと常に考えていた。
手を洗っても洗っても、まだ汚れているのではないかと考える「強迫観念」みたいなものに陥っていたのだ。
だから、仕事を終えてオフィスを出ても、ずっと英作文のことばかり考えていた。
帰り道にふとアイデアがわいてきて、急いでスマホのメモに書き込むみたいなことは何度もあった。
家に帰ったら、サークルKサンクスで買った大盛りのカルボナーラを2Lペットボトルのサントリー天然水で流し込み、そのままベッドに横になった。
ネクタイを外すのも、お風呂に入るのも面倒くさかった。
そんな暇があったら、一刻も早く眠りたかった。
当時を振り返ると、肉体的な疲労感は半端なかった。
けれど不思議なことに、絶望感はまったくなかった。
なぜなら、「自分が編集を手がけた参考書によって、全国の英作文嫌いの受験生を救う」という希望があったからだ。
人は希望があれば、どれだけ今が辛くてもしんどくても乗り越えられるー
安っぽいJ-POPの曲にありがちなフレーズは、あながち間違っていなかった。
泣いても笑っても、あともう少しで校了だから頑張らないと。
全国の受験生、待ってろよ。
すごい参考書を作って、あっと驚かせるから⋯!
忘れもしない紀伊國屋書店梅田本店での思い出
2017年3月24日ー。
僕はその日、故郷の関西に帰省していた。
アーバンリサーチ茶屋町店で服を買ったあと、紀伊國屋書店梅田本店に足を運んだ。
もちろん、自分が編集した「必修編 英作文のトレーニング」が売場に並べられているのを見に行くために。
紀伊國屋書店に着くと、すぐに学習参考書コーナーを探した。
ちょっと奥のほうかなあ。
あ、あそこか。
Z会の参考書は、独立した売場に置かれていたのですぐにわかった。
えーと、「英作文のトレーニング」はどこかな⋯。
あ、あった。
そこには、自分が編集を手がけた「必修編 英作文のトレーニング」が何冊も平積みされていた。
そのうちの1冊を手に取り、ページをパラパラとめくる。
僕は泣きそうになった。
静岡のすみっこの地方都市にある本社ビルの7階ー。
その7階のすみっこにある汚い机で毎日もがき苦しみながら検討した一言一句が、確かに紙の上に印刷されていたー。
そして、今僕は遠く離れたここ大阪で、その一言一句を噛み締めている。
すると不思議なことに、編集していたときに抱いていた苦しみが一瞬で吹き飛んだ。
「書籍を編集しているときはめちゃくちゃしんどくて二度とやりたくないと思うんだけど、実際に本屋に並んでいるのを見ると、全部吹っ飛ぶんだよなあ。」
僕はふと、同じ部署の上司の言葉を思い出した。
ちなみにその上司は、「速読英熟語」や「リンガメタリカ」などの編集を手がけた人で、僕がZ会時代に一番尊敬していた人だ。
「必修編 英作文のトレーニング」は市場からどのような評価を受けたのか?
こんな感じで、悪戦苦闘しながらも「必修編 英作文のトレーニング」を何とか発売することができた。
けど、発売することはゴールではない。
むしろ、ここからが本当のスタートだ。
正直に言うと、自分が編集を手がけた参考書が世間からどのような評価を受けることになるのか、発売直後は不安で仕方なかった。
もちろん、全身全霊をかけて編集したから、自分なりには自信があった。
けど、自分がどんなに「優れた参考書」だと思っていても、受験生が「全然わかりやすくない」「マジで使えない」「買って損した」などと不満を抱いたら意味がない。
もし、「改訂前のほうがよかった」なんて言われたらどうしよう。
この1冊に込めた情熱や努力がすべて水の泡になるし、そもそも僕がZ会に入社した意味がなくなるのではないかー。
一体どういう評価を受けることになるのか、僕はビビり倒していた。
そして時は過ぎ、「必修編 英作文のトレーニング」に関する意見や感想が耳に入る機会が多くなっていった。
結論から言うと、予想していたよりも好意的な評価が多かった。
アンケートハガキでは、「行間が狭くて読みにくい」みたいな声もあったけど、内容に関しては好意的な意見が結構多かった。
ネット上でも、実際に使ってくれた人がすごい褒めてくれた。
まじでZ会の英作文のトレーニング必修編は信じられないぐらい完成度高い。この参考書の素晴らしさがわかる人となら一生語れる。
— 風輝 (@takayana_ti) November 20, 2018
英作文参考書は、極力難しい単語を使わず、名詞節を多用したりして、学力が高い中学生でも読める表現を使う「美学」を教えてくれる本がいい。その点『ドラゴンイングリッシュ』も『英作文のトレーニング(必修編)』も、模範解答読めば「こんな簡単な表現で書けるのか!」と驚かせてくれる。
— 笠見未央(猫ギター) (@nekoguitar) July 22, 2019
わたしは桐原の頻出英語整序問題850とZ会の英作文のトレーニング必修をこなしたら英作文に抵抗がなくなりました。
あと英語で日記を書いてました。— まゆたん (@akihabara_chan) August 20, 2018
もしも自分に教材編集のセンスや才能があるとするならば、それらが世間の人々に認められた気がしてすごく感動した。
また、英作文に関する自分の経験や考えが間違っていなかったことに安心した。
僕はちょっぴり、自信がついた。
「市場からの評価」というのはとてもリアルで時には残酷なものだけど、絶対に目を背けてはいけないと思う。
僕は入社1年目で「市場とのつながり」を体感することができて、本当によかった。
「必修編 英作文のトレーニング」の編集時に心がけていたこと
ここからは、「必修編 英作文のトレーニング」を編集していたときに心がけていたことを深く掘り下げて紹介していきたい。
当時のことは鮮明に覚えているので、教材編集の目線でいろいろ語らせてほしい。
ターゲットは「過去の自分」
当たり前の話になるけど、教材を作るときは「ターゲット層」がどんな層なのかを決めておく必要がある。
たとえば⋯
- 「速読英単語 入門編」⇒ 初歩的な英単語をマスターしたい高校1年生
- 「長文問題集の一番上のレベル」⇒ 長文読解の配点が高い難関国公立大を目指す受験生
あたりがターゲット層になるだろう。
では、「必修編 英作文のトレーニング」のターゲット層はどんな層だったのか?
それは、「文法は一通り学んだけれど、英作文を書いた経験があまりなく、具体的な書き方を学びたい層」だった。
わかりやすいっちゃわかりやすいけど、自分にはしっくりこなかった。
もちろん言葉の意味は理解できるけど、そのターゲット層に刺さる内容を「1冊の本」という具体的な形に落としこめる自信がなかった。
じゃあどうしたのかというと、ターゲットを「過去の自分」に設定した。
僕は高3の頃、英作文の書き方のコツが全然わからず不安だらけだった。
だからこそ、当時の自分は「必修編 英作文のトレーニング」のターゲット層にマッチしていた。
そうか、当時の自分が使ったら泣いて喜ぶほどの本を作ればいいのかー。
ターゲットを「過去の自分」に定めてからは、
- どれくらいのレベルの例題を掲載するのか
- どのような重要表現を取り扱うのか
など、全体の方向性に関するアイデアが面白いように浮かんできた。
まるで、目の前の霧が晴れたような感覚だった。
ちなみに、英語のコロケーションを重点的に取り扱ったのも、当時の自分がコロケーションを全然知らなかったからだ。
関連記事 「英語コロケーション辞典」 を使って、英作文の表現の幅を広げよう!
ここからはちょっと専門的な話。
プロダクトやサービスの設計をする際、「ペルソナ(=架空のユーザー像)」を細かく設定する人が多いけど、個人的に「ペルソナ設定」はあまり好きではない。
「リアルさ」に欠けるからだ。
あくまで僕個人の意見だけど、人は自分が実際に見たものや経験してきたことからしかアウトプットできないと思う。
失恋したことのない人は失恋した人に有益なアドバイスを送ることはできないし、病気で苦しんだことのない人は病気で苦しんでいる人の気持ちを本質的には理解できない。
何か人の役に立つ商品やサービスを作りたい人は、「これまで自分が悩み苦しんだけど、克服したことのある分野」を選んだほうがいいと思う。
「対話形式の解説」というスタイルを最大限生かす
「『必修編 英作文のトレーニング』の一番の特徴は何ですか?」と問われると、僕は間違いなく「対話形式の解説」であると答える。
実を言うと、「対話形式の解説」というスタイルは「入門編 英作文のトレーニング」から受け継いだ要素ではあったけれど、僕は改訂するにあたり、このスタイルをより強く生かそうと決意した。
具体的に何をしたかというと、「雑談的な要素」を解説の中にふんだんに入れるようにした。
たとえば⋯
- その例題で取り上げたポイントに関連するクイズを日本人教師が突然出す
- その例題に関連する外国の文化の話をネイティブスピーカーが補足する
などなど、ちょっとした「脱線」や「遊び心」を解説のいたるところに散りばめた。
いわゆる「客観的な説明形式」ではなく、「対話形式」の解説だったからこそ、クイズや文化の話を悪目立ちさせることなく盛り込むことができた。
なぜ僕がここまで強く「雑談的な要素」にこだわったかというと、高校のときに通っていた塾の先生の雑談がすごく好きだったからだ。
時には授業時間の半分くらいを雑談に使ってしまうような先生だったが、僕は夢中で聞いていた。
振り返れば、当時の授業の内容はすっかり忘れてしまったけど、雑談の内容だけは今でも鮮明に覚えていたりする。(意外にこういう人多いんじゃないかな?)
この経験があったから、雑談的な要素は何としてでも入れたかった。
まったく関係ない雑談はさすがに意味がないから、「クイズ」や「外国の文化の話」を載せることにした。
「クイズならまだしも、外国の文化の話なんて受験には関係ないから、載せても意味ねーじゃん」という意見があるかもしれないけど、その考えはちょっと短絡的だと思う。
なぜなら、日本と外国の文化の違いを知ることが、「英語」という橋渡しのツールを習得するための強力なトリガーになることがあるからだ。
「へー、アメリカって、洗濯物は外に干さないんだ!」
「イギリスのギャップイヤー制度って何だかおもしろそうだな!」
学びの新しい扉を開くのは、いつだって「知的好奇心」だ。
同じ重要ポイントを繰り返し登場させる
僕は大学時代の家庭教師のアルバイトを通じて、「生徒は学んだ内容を一回で覚えない」ということを痛感した。
「ポイントに触れる→覚える→忘れる→再びポイントに触れる→覚える→忘れる⋯」というサイクルを繰り返すことで、生徒はやっとそのポイントをマスターできるようになるのだ。
この経験をふまえ、「必修編 英作文のトレーニング」を編集する際は、100の例題を通じて同じ重要ポイントを繰り返し登場させるようにした。
たとえば、例題8の解説で紹介した重要ポイントが、例題38の解説で再び登場するみたいな感じだ。
これにより、例題を順番に解き進めることで、英作文の重要ポイントを確実に定着できるようにした。
学んだ知識を長期記憶として定着させるには、「繰り返し」が一番の近道だ。
平易な英単語を使用する
「『NEW HORIZON(ニューホライズン)』に出てくる英単語だけを使って、京大の和文英訳の解答例を作れないかな?」
これは、僕が受験生だった頃の口癖だ。
ニューホライズンは中学英語の教科書なので、当然中学レベルの英単語しか掲載していない。
つまり、「簡単なレベルの英単語だけを使って、難解な京大の和文英訳を解けたらかっこいいな!」とずっと思っていたのだ。
当たり前の話だけど、仮に受験生が「ジーニアス英和辞典」の単語をすべて覚えれば、英作文の解答の幅は確実に広がるだろう。
けれど、受験生には「ジーニアス英和辞典」の単語をすべて覚える時間などない。
だから、限られた手持ちのリソース(=平易な単語)で勝負するしかないのだ。
そんな受験生を応援するため、「必修編 英作文のトレーニング」の解答例を編集する際は、「いかに平易な英単語を使用するか」を常に意識した。
とにかく、難しい単語を使って失敗するリスクを犯すよりも、平易な単語を使って逃げ切る姿勢を身につけてほしかった。
さすがに「ニューホライズン」レベルとまではいかなかったけど、「速読英単語 必修編」レベルの単語なら自由に使いこなせるイメージで解答例を用意できたと思う。
「へー!こんな簡単な単語だけでも英作文は書けるんだ!」と思ってくれたら、めちゃくちゃ嬉しい。
難しいこと書けなんて言うてへんからね。易しいなかで1番ええのを探すこと。基本的な表現を上手に使いこなすこと。はい、次行くね。
— 中村素和bot (@motokazubot) December 31, 2013
目安としては小学校3,4年の弟妹を隣に置いとくこと。このコらがわかるように説明したぐらいが丁度ええから。
— 中村素和bot (@motokazubot) December 30, 2013
英作文の楽しさを伝える
「英作文って楽しい!」
これが「必修編 英作文のトレーニング」を編集する中で、僕が一番伝えたかったポイントだ。
なぜなら、英作文上達の一番の近道は、「英作文って楽しい!」と思えることだからだ。
確かに、最初は誰だって全然英文を書けなくて絶望してしまう。
僕もはじめはチンプンカンプンな英文しか書けず、だいぶ凹んだ。
けど、書き方のコツを身につけて、表現のストックを増やして、何回も演習を繰り返していくと、ちょっとずつマシな英文が書けるようになってくる。
そうなると、もうこっちのものだ。
僕は浪人時代に英作文の勉強にハマって、1日に7題も京大英作文の問題を解いたことがある。
もちろん、Z会の通信添削の英作文も夢中で解いた。
添削答案の感想欄では、「いかに英作文がクリエイティブで面白いか」について力説した。
とにかく、英作文が楽しくて楽しくて仕方がなかった。
このとき覚えた知的高揚感を、僕は編集者として「必修編 英作文のトレーニング」にそのまますべてぶつけたつもりだ。
「具体的にどういうところにその知的高揚感が表れているのですか?」と聞かれると返答に窮してしまうけど、細部に至るまでワクワクする気持ちを忘れずに編集したということだけは伝えておきたい。
やっぱり、作り手がワクワクしないと、ユーザーには絶対に刺さらないと思う。
「必修編 英作文のトレーニング」は僕にとって青春そのものだった
「必修編 英作文のトレーニング」が発刊されてから数年が経つけど、この参考書の編集に携われたことは間違いなく僕にとって青春そのものだった。
楽しいこと、嬉しいこと、苦しいこと、悔しいこと⋯、すべてを経験させてもらった。
最後に伝えておきたいのは、「僕一人ではこの参考書を絶対に作れなかった」ということだ。
もちろん、肝となる部分はある程度自分ひとりで作った自負はあるけど、まわりの人のサポートがなければ絶対に途中で失踪していたと思う。
執筆協力してくれた日本人の先生、英文を何回もチェックしてくれたネイティブの先生、そして暖かく指導してくださった上司や同僚に心の底から感謝の気持ちを伝えたい。
そして、僕はもうZ会を辞めてしまったけど、何一つ後悔はしていない。
むしろ、Z会での経験は僕にとって人生の大きな基盤になっていると思う。
今後も「受験生ファースト」という姿勢を忘れず、このブログを通じて大学受験に役立つ情報を発信していくので、よろしくお願いします!
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